OneStep60
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やっぱり松本さんの、事?
テーブル越しに間近に寄った雅紀の黒目がちな瞳が、正直今の俺には眩しすぎる。
店の件が済んだ時点で、松本さんの仕事は終わりのはずなのに、僕のこれからのこともすごく心配してくれて
仕事熱心な人なんだなってそう思ってたんだけど
昔から、松本は仕事にも人にも真摯で
周りが求める以上の事を、何の小狡さもなくやってのけていた。
だからこそ、あの歳で今や営業部のトップでいるのは誰もが納得出来ることで。
翔さんと、2個上の、しかも当時は一営業マンとはいえ、周りは俺を社長の息子だと一線も二線も引いていたのに、唯一下の名前で分け隔てなく慕ってくれたのは、彼だけだった。
何月もの時間を費やして、大口の顧客を勝ち取った時は、二人で飲み明かした事もある。
ただ。
ただ、だ。
それで、今日も、わざわざ店まで来てくれて
今度、郊外にある店舗用地の案内をしてくれるって
ブハッと、新たに注いだビールを飲んで、思わずそのまま吹き出した。
わぁっしょ、しょーちゃん、大丈夫!?
咽せた俺に慌てて立ち上がり背中を撫ぜる雅紀に、大丈夫だと、咳き込んだまま片手を挙げて頷いた。
いいつ行くんだ?
え?うん、えっ、と
あ、明日
突っ伏したテーブルで額を打ち付けて、鈍い音が響いた。
ねしょーちゃん大丈夫?
大丈夫、じゃねーし。
しかも
明日は土曜日で休みじゃねーか。
男同士、酒が入れば熱い話で盛り上がりもする。
さもすれば、色恋の話にもなる。
人の趣向に口を挟むつもりは更ない。
そんな事言い出したら、キリが無い。
それは、分かっている。
が、しかし、だ。
しょーちゃんどうしたの?
目の前で首を傾げ、俺の心配事など知る由もない雅紀が益眩しい。
これは俺の勘、だ。
だけど、外れてはいない、はず。
なぁ雅紀
お前は鋭いけど
やっぱり、分かってなさすぎる。
つづく