OneStep60

59

やっぱり松本さんの、事?

テーブル越しに間近に寄った雅紀の黒目がちな瞳が、正直今の俺には眩しすぎる。

店の件が済んだ時点で、松本さんの仕事は終わりのはずなのに、僕のこれからのこともすごく心配してくれて

仕事熱心な人なんだなってそう思ってたんだけど

昔から、松本は仕事にも人にも真摯で

周りが求める以上の事を、何の小狡さもなくやってのけていた。

だからこそ、あの歳で今や営業部のトップでいるのは誰もが納得出来ることで。

翔さんと、2個上の、しかも当時は一営業マンとはいえ、周りは俺を社長の息子だと一線も二線も引いていたのに、唯一下の名前で分け隔てなく慕ってくれたのは、彼だけだった。

何月もの時間を費やして、大口の顧客を勝ち取った時は、二人で飲み明かした事もある。

ただ。

ただ、だ。

それで、今日も、わざわざ店まで来てくれて

今度、郊外にある店舗用地の案内をしてくれるって

ブハッと、新たに注いだビールを飲んで、思わずそのまま吹き出した。

わぁっしょ、しょーちゃん、大丈夫!?

咽せた俺に慌てて立ち上がり背中を撫ぜる雅紀に、大丈夫だと、咳き込んだまま片手を挙げて頷いた。

いいつ行くんだ?

え?うん、えっ、と

あ、明日

突っ伏したテーブルで額を打ち付けて、鈍い音が響いた。

ねしょーちゃん大丈夫?

大丈夫、じゃねーし。

しかも

明日は土曜日で休みじゃねーか。

男同士、酒が入れば熱い話で盛り上がりもする。

さもすれば、色恋の話にもなる。

人の趣向に口を挟むつもりは更ない。

そんな事言い出したら、キリが無い。

それは、分かっている。

が、しかし、だ。

しょーちゃんどうしたの?

目の前で首を傾げ、俺の心配事など知る由もない雅紀が益眩しい。

これは俺の勘、だ。

だけど、外れてはいない、はず。

なぁ雅紀

お前は鋭いけど

やっぱり、分かってなさすぎる。

つづく